メーカー技術者のブログ

技術者転職、めっき技術について

高速めっき(噴流めっき)

お疲れさまです。

 

今回は高速めっき手法として噴流めっきについてご紹介します。

 

目次

 

※めっき手法全般を紹介した記事についてはこちらを参照

めっき手法 - メーカー技術者のブログ

 

(1)概要

 ノズルからめっき液を噴流させ、強い勢いでめっき面に当ててめっきする方法です[図1]。別名、「ジェットめっき」ともいいます。

 

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対象物の片面のみめっきしたい場合や部分めっき(※)に使用します。

 

部分めっき:対象物を所定箇所またはパターン形状にめっきすることを言います。一般にはめっき部のみに液が触れる状態で処理します。必要に応じて、品物とマスク部材(治具、レジスト印刷、シールなど)を密着させた状態でめっきします[図2]。

例)リードフレームなど端子先端部のみなどにめっき、基板上に所定のパターン形状にめっき

 

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https://www.asahimekki.com/point/5119.html

 

陽極については、噴射ノズルそのものが陽極になっている場合や、ノズルと陰極の間にメッシュ状の陽極を設置する場合などが様々です。いずれにしても、加工の観点から溶解性陽極の使用は困難で、白金製(白金コーティング)の不溶性陽極を使用することが多いようです。

 

(2)特徴

【1】陰極の高電流密度での使用が可能

 液を強力に吹き付けることになるので、ラックめっきやバレルめっきと比較してカソード付近の液の入れ替わり(撹拌状態)が激しく、めっき部表面への金属イオン供給が活発です。

図3はめっき反応における金属イオンの動きを示したものです。金属イオンは沖合いからカソード表面近傍の拡散層と呼ばれる領域に供給され、還元(イオンの消耗)します。

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図3 めっき反応時の金属イオンの移動

めっき析出は電気量に従い進行します(ファラデーの法則)。正常なめっき反応においては、沖合からの金属イオン移動(供給)Ndと拡散層での金属析出(イオン消耗)Neの収支は保たれた状態です(Nd=Ne)。しかし、一定以上の電流密度になると供給が追いつかなくなり、金属イオンが不足します(Nd<Ne)。その状態においては、カソードでは水の電気分解により水素ガスが発生しやすく、粒成長が優先的となるため粗大化し、粗いめっき皮膜が得られます(これがヤケ・焦げの要因)。

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この状態(イオン不足)にならない電流密度の最大値を限界電流密度といいます。

限界電流密度iLは以下の関係式で示されます。

 限界電流密度は拡散層厚みdと反比例の関係にあり、薄いほど電流密度を高くすることができます。

噴流式のように撹拌状態が激しくなると拡散層は薄くなります。したがって、高い電流密度でも良好なめっき皮膜が得られます。

さらに、金属濃度C0を大きくすることでも電流密度を高くすることができます。

 

【2】部分めっきまたは片面めっき

 ラック式(浸漬)にて部分めっきを行う場合、事前にレジスト印刷やマスキングシールを施すことになります。そのため、めっき後にはそれらを剥離する工程が必要となります。一方、噴流めっきにおいては、パターン形状にもよりますが、マスク治具に品物を押さえつけてめっき面と密着する状態で液を吹き付けて行うことが可能です[図4]。その場合は先述の剥離工程は不要となります。

また、片面のみをめっきする場合、浸漬による方法では、その裏面をカバーする治具などが必要となります。しかし、めっき面のみに液を当てる噴流式ではそれが必要ないため、治具を脱着する工程も不要です。

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以上から、工程を省略化でき、人手も削減できることから自働化しやすい手法と言えます。

 

【3】持出しによる廃液低減

 品物と各処理液との接触が片面あるいは部分的なため、他の手法と比べて液の持出し量が少ないです。排水処理負荷やロス低減の面でも効果が期待できます。

 

 

(3)ポイント・注意点

【1】めっき液

 短時間処理かつ高電流密度での使用を可能とした噴流めっきでは、その効果を最大限に引き出すために金属濃度を高めにすることが多いです。また、高電流密度に適しためっき液を選定することが重要です。これは添加剤や電導塩の種類、およびその濃度管理が肝となりますので、めっき液メーカーと相談し、選定することが重要です。

 

【2】液更新

 先述しましたが、陽極は不溶性のもの(白金コーティング)を使用することが多いです。溶解性陽極と比べて、陽極での電解生成物(有機物の分解など)が発生しやすくなります。また、高電流で使用できることから、それらがさらに蓄積されやすく、液劣化は進行しやすいです。そのため、めっき液種によっては定期的な液更新または活性炭処理による再生処理が必要になる場合があります。

めっき手法検討においては上記を念頭に入れて管理手法を確立していくこと、そして、そのランニングコストを調査することが大事です。

 

【3】液の染み出し

 部分めっきとしてマスク部材を使用する場合、部材内へ液が染み出しには注意が必要です。品物とマスク部材との密着が弱い、またはマスキングが破損すると、液がマスク内へ侵入するため、所定位置や寸法でのめっきがなされません。めっきパターンや品物形状(凹凸、平面度など)によって難易度や適切なマスキング手法は異なりますので、検証段階で確認していくしかないでしょう。品物の固定密着方法、マスク手法と部材の選定、液を当てる強さ(流速)をしっかり検証しましょう。流速の検討にあたっては圧力損失がないように配管径や経路などを考え、設計する必要があります。

 

まとめ

噴流めっきについて、ラック法と比較した表を以下に示します。片面かつ部分めっきの場合はまず、噴流式を検討されると良いかと思います。

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おわり