メーカー技術者のブログ

技術者転職、めっき技術について

バレルめっき

お疲れさまです。

 

今回はめっき手法のひとつであるバレルめっき(主に電解めっき)についてご紹介します。

電子部品や機械部品などへのめっきで使われる手法になるので、これらに携わる方にとって役立つ内容になればと思います。

 

目次

 

※めっき手法全般を紹介した記事についてはこちらを参照

めっき手法 - メーカー技術者のブログ

 

(1)概要

 バレルめっきとは、バレルと呼ばれる容器の中に品物を投入し、めっき浴槽の中でバレルを回転させることでめっき品を混合させながらめっきする手法です。微小部品など小さいサイズの金属(導体)材料を大量に処理する場合に適しています。

バレルめっき手法には、水平式、傾斜式、振動式とさらに区別できますが、ここでは代表例として水平式について説明します[図1]。       

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(2)特徴

【1】品物が堆積し、一つの塊になる

 バレル内に数百~数万個の品物を投入し、めっき中は品物同士が接した状態で混合(転がし)されますガラガラ抽選のようなイメージ)。

また、通電についてはバレル内へ挿入されたリード線を通し、その先端(図1の給電部)で行われます(先端部以外は不導体被覆されている)。めっき時は給電部と品物が常に接触している必要があり、給電部を覆うような形で品物が一つの塊(かたまり)となって堆積します。

 

【2】バレル孔を経路とした液の出入り

 他のめっき手法では液流が品物に直接向かいますが、バレルめっきでは容器に加工した丸もしくはスリット状の孔を通路として液が出入りする機構です[図2]。そのため、内外での液の出入り(交換状態)が限定的です。よって、電解反応によりバレル内の液状態が劣化しやすく、成分変動も大きいです。これがバレルめっきの難しい点のひとつと言えます。

また、陰極へと向かう電流もバレル孔を通路とした限定的なものであるため、品物が受け取る電流密度は瞬時的に集中したものになります。

          

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【3】周期的な電流密度変化

 先述した通り、投入された品物は堆積され塊とみなすことができます。その内部にある品物ひとつに着目すると、バレル回転により「①表面→②バレル壁側→③内側」と位置を周期的に移動します[図3]。この各フェーズによって品物ひとつが受ける電流密度は変化します。陽極(めっき液)側に晒された状態の①では最大、バレル孔を通して晒された②は①③の間程度、埋もれた状態の③は最小の電流密度となります。ラックめっきなどとは異なり、電流密度は一定ではなく、処理時間(バレル回転数)に対し波のように変化します。加えて、【2】で述べたように、バレル孔を通路とした電流集中も考慮すると、①の状態では、かけた電流値以上の大きな電流密度を実際には受け取っています。よって、一般にバレルめっきでは、他のめっき手法と比べて低い電流密度(0.1~1A/dm2)となるように小さい電流でめっきします。

 

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(3)ポイント・注意点

【1】品物の混合攪拌

 品物は周期的に位置を変えますが、混合不足の場合だと電流密度変化の周期性が失われ、図3の①や③の状態に偏ったことで不良品が生じるリスクがあります。前者では、電流密度過剰な状態が続くことで陰極(品物)への金属イオンの供給が不足し、やけ(焦げ)と呼ばれる品質不良が発生します。一方、後者は電流密度過小による膜厚不足などが想定されます。

均一な混合のためには

(ⅰ)バレル内への品物投入量

(ⅱ)バレル回転

を適正にすることが重要です。

 

(ⅰ)バレル内への品物投入量

 バレル容積に対して20〜40%くらいの投入量が目安です[図1]。多すぎると混合が図3の①〜③の周期が遅くなるor不均一な混合となります。

少なすぎると品物が塊から遊離したり、嵩が少ないことによりリード線先端の給電部が露出します。前者の場合は品物同士の接触から放れて通電が途絶えるだけでなく、その状態から再度品物に接触する際にスパークと呼ばれる焼け跡のような外観不良が発生します[図4]。後者の場合は露出部より金属の異常析出(花咲き)が発生しやすくなります[図5]。生産の都合上、少量で投入する場合はダミー材と混合させて嵩増しするなどで対応します。            

   

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引用

図4:http://www.press-mekki.com/faq/6113.html/

図5:https://www.jcu-i.com/technical/新規装飾用硫酸銅めっきプロセス%E3%80%80cu-brite-ep-60/

 

(ⅱ)バレル回転

 バレル回転を十分な速度にし、しっかり混合することが重要です。しかし、回転をしゃかりきに速くすれば良いわけではありません。速すぎると今度は品物の動きが激しくなり、一時的に塊から遊離することで先述のスパーク不良につながります。

回転速度についてはバレル径や品物サイズによって適切に設定することが大事です。

経験則から、以下の式より、速度の目安をつけることができるそうです。

回転速度(rpm)=k/√D

k:定数、4〜8を当てはめる

√:ルート  D:バレルの直径(m)

 

ただ、これは品物サイズや重量にもよって変わるため、検証することが大事です。

筆者の経験では、同じサイズ・形状・投入量(嵩体積)の品物でも、その素材が金属vs樹脂では重量密度が全く異なるため、各々で適切なバレル回転数に調整したことがあります。

投入された品物の混合状態は可視化できないため、このあたりの検証は熟練のノウハウも必要なのが現状でしょう。

 

【2】持込み・持出し

 水洗を含む各処理槽からバレルを持ち上げ、次の処理槽へ移動する過程では液が持ち出されます[図6]。バレル内に侵入した液は、どうしても品物の塊内やバレル内に残ってしまうので、持出し量は他のめっき手法より多くなります。よって、処理液の成分濃度変動も大きくなるため、濃度管理をしっかり行いましょう。また、廃液処理の負荷や水洗槽の管理にも注意が必要です。

持出しを低減する方法として、

・装置に液切り機構(バレル持ち上げ後の数秒程度の空中停止および揺動など)を設ける

・比重の小さいめっき液を使用する

などがあげられます。

だだし、めっき液については比重を気にしすぎると品質に影響が出る可能性もあります。メーカーによってはバレルめっき専用のめっき液を提供するところもあるので、評価をして目的を満たす液を選択しましょう。

 

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【3】リード線

先述の通り、リード線の給電部は露出すると、特にニッケルめっきなどでは花咲きが発生します。花咲きが発生しても、めっき品質にはさほど大きな影響はありませんが、同一バレルで異種製品を続けて処理する場合は注意が必要です。前回処理品が花咲き部に挟まるなどして残存してしまい、次回品に混入する可能性があります。

露出対策としては

・十分な品物投入量

・バレル回転の適正化

・リード線にクセをつける

→リード線は塩ビなど絶縁材料で被覆されたフレキシブルなものが一般的です。給電部が浮いた位置にある時は、取り付け更新時などに手で入念に押し付けて浮かないようにします[図7]。          

           

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まとめ

・バレルめっきは、バレル内外において孔を通路とした液流および電流であるため、液状態変化や品物が受け取る電流密度の挙動に特徴がある。

・バレル内での品物混合状態が重要であり、バレル回転や品物投入量を適正にする

 

 

参考:星野芳明, 表面技術, バレルめっきとめっき装置, 2017 年 68 巻 11 号 p. 586-593

 

 

おわり