技術系職場におけるトップダウンとボトムアップ
お久しぶりです。
長らくブログを書いておりませんでしたが、気ままにやっておりますので引き続きよろしくお願いします。
今回は技術系職場におけるトップダウンとボトムアップの違いについて。
※会社経営や組織全体における話ではなく、職場または部署単位での内容となります。
私は2回の転職でトップダウンとボトムアップ、色が大きく異なる職場を経験しました。
そんな相異なる職場に身をおいて感じたメリットやデメリット、気づきなどをお伝えします。
今後の会社選びや、環境が変わってトップダウンとボトムアップの違いに戸惑いを感じている方の参考になれば幸いです。
(1)職場風土の分類および定義
ボトムアップとボトムアップの意味については以下の通り定義します。すでにご存知かと思いますので読み飛ばしていただいてもOKです。
図1はイメージを示しています。
トップダウンとは
上位者の意思決定に基づいて下位が動く方式を言います。
上位者の決定に基づいて、中間者がかみ砕いて具体的指針を出し、それを下位者が忠実に行動するイメージです。
ボトムアップとは
下位者からの提案や報告を上位へ吸い上げ、その内容に基づいて上位が判断をした上で動いていくスタイルを言います。
基本的には下位者が具体的指針まで検討して提案し、中間者がその内容を整理して上位者に報告し、上位者がその是非を判断する形です。問題なければ提案を踏襲した形で実行していくことになります。
ハイブリットというスタイル
これは私の造語ですが、トップダウンとボトムアップを両立した方式を言います。
会社や組織全体の仕組みを変えるような取り組みはトップダウンで動かし、その中で現場やプレーヤーからの意見も取り入れながら進めたり、あるいは案件の規模や内容に応じて使い分ける方法を指します。
(2)実際に働く上でのメリット・デメリット
【トップダウン】
〇メリット
・スピード感がある
上からの指示はやはり権限が強いため意思決定が速く、物事がスムーズに進みます。意思決定のところでプレーヤー側が困ることは少ないでしょう。
・上位者のマネジメントスキルを体感できる
上位者や管理職の指示スタイルや意思決定の方法を強く体感できます。指示が適確であれば、自身が上位側に立ったときには大いに役立つでしょうし、成果につながれば貴重な経験となります。工場運営や事業マネジメントを目指す人にとっては、そのマネジメントスキルは参考となるはずです。
×デメリット
・自分の意見や考えを仕事に反映させにくい
上からの指示は絶対です。指示内容が非合理的であったり理不尽なものであっても基本的に意見や反論はしにくい雰囲気です。そうなるとプレーヤーのうちは自分の考えを反映できずにもどかしい気持ちになるかもしれません。それでも上位が責任をとってくれる健全な組織であればいいのですが、“実行した人間が悪い”という風潮がある組織があるのは事実で、そういった環境ではストレスが大きく、モチベーション維持が難しいです。
・パワハラの可能性
指示を遂行させるために細かいことを指摘したり声を荒げて厳しい言い方や高圧的態度をとる上位者がたまにいます。筆者も「やれと言ったらやれ!」「こんなこともできねえのか!」と言われたものです。トップダウン環境ではそれが当たり前という雰囲気もあり、緊張感は大きいかもしれません。
【ボトムアップ】
〇メリット
・自分の意見や考えを仕事に反映させやすい
プレーヤーのうちからでも自分の意見や考えを反映させられるため、やりがいを感じることができるでしょう。もちろん、すべてを受け入れてもらえるわけでもありませんが、提案が採用されて成果が出たときの喜びもひとしおです。将来の転職の際に実績アピールとして有効ですし、仕事に意欲を持って取り組みやすくなります。
・現場の実態を考慮した意思決定になりやすい
現場からの声を吸い上げる形ですので、現場の実態に沿う進め方と言えます。上位都合の一方的な指示ではないので、プレーヤーならではのアイデアが出やすくなります。
×デメリット
・スピードに欠ける
下位→上位→下位というルートになるので意思決定に時間がかかります。また、下位からいろんな意見が出されるため、まとめきれずに収束できないなんてこともあります。方向性が見い出せない事態となりますので注意が必要です。
・中間管理職が仕事に無関心・無責任になりがち
ある程度、部下内で結論が出ていたり完結していたりもするので、管理職がラクになりがちです。そしていわゆる無能管理職が発生します。あまり考えることもなく下からの提案を容認するだけの状態となり、次第に部下の仕事に無関心になることもあります。度が過ぎると、なにか問題が発生しても「部下が決めたことだから俺は知らない」と無責任な態度をとる管理職もいたので、ボトムアップの弊害と言えるでしょう。
・人間関係がこじれる
ボトムアップ環境下では下位同士で議論して提案することが多いですが、いろんな意見が出ますので、意に反する発言や食い違いがあると口論に発展する場合があります。後にも遺恨や確執として残り、雰囲気が悪くなることがあります(前職がまさにそうでした)。
【ハイブリッド】
〇メリット
・仕事はしやすい
これはトップダウンとボトムアップのバランスを取った方式ですので、上位の意思決定により滞りなく仕事は進み、一方で下からの意見も取り入れるのでプレーヤー側も大きなストレスを感じることなく、でも適度な緊張感を持って取り組めると思います。
〇デメリット
・中間管理職はストレスが大きい
中間の立場となると、上からも下からも意見が出るので、それらを汲み取る難しさはあります。
また役割として、「下からの意見をまとめて上に伝える」のと「上からの指示を具体化して下に従わせる」というタスクが発生するため、負担が大きいです。
現職ではハイブリットスタイルに近いのですが、板挟み状態が強くなりますので、病むくらい精神的にダメージを受けた管理職はいます。
(3)適性について
トップダウン職場に向いている人
ⅰ)考えるよりまず行動する人
満点にはこだわらずにすぐ動き出せる人は適応できるでしょう。トップダウンではスピード感を求められることが多く、完成度が高くなくても、ある程度の形を残せるような人は好まれます。
ⅱ)リーダーシップがある人
将来は部下を率いて組織を動かしたい人はトップダウン組織で活躍できるでしょう。
最初の数年は我慢が必要ですが、いずれ後輩ができると指導しながら仕事を進め、そしてチーム→グループ→部署単位と仕事を動かす規模と機会が増えていきます。リーダーシップを発揮できる場が次第に増えるので、それに比例してやりがいも増していくことでしょう。
ボトムアップに向いている人
ⅰ)自分で考えてから行動できる人
自分の考えをしっかり持ち、それに基づき行動できる人はボトムアップ式がいいでしょう。自ら課題を発掘し、計画や手段も検討できる人はやりやすいでしょう。
ⅱ)若いうちに転職を検討している人
若いうちから自分で仕事を生み出したり、手を挙げて提案した仕事が成果につながる経験はボトムアップでしかできません。そして、それは実績として誇れるものとなります。そのような実績を持つ方は転職市場では魅力的に映ることでしょう。また、市場価値を意識することでさらに仕事に前向きに取り組めるといった相乗効果も期待できます。
筆者もそういった環境で仕事に取り組んだことで、様々な経験を積むことができましたし、話や提案を聞いてくれた当時の上司には感謝しています。
まとめ
いかがだったでしょうか。
トップダウンとボトムアップそれぞれの特徴を享受してから転職等でステップアップするのも良し、自身の適性や性格に合うならその環境でバリバリ活躍するのも良し。
特徴を理解した上で今後の皆さんのキャリア形成や職場での振る舞いの参考になれば幸いです。
以下、表にてまとめを記載します。
おわり
高速めっき(噴流めっき)
お疲れさまです。
今回は高速めっき手法として噴流めっきについてご紹介します。
目次
※めっき手法全般を紹介した記事についてはこちらを参照
(1)概要
ノズルからめっき液を噴流させ、強い勢いでめっき面に当ててめっきする方法です[図1]。別名、「ジェットめっき」ともいいます。
対象物の片面のみめっきしたい場合や部分めっき(※)に使用します。
※部分めっき:対象物を所定箇所またはパターン形状にめっきすることを言います。一般にはめっき部のみに液が触れる状態で処理します。必要に応じて、品物とマスク部材(治具、レジスト印刷、シールなど)を密着させた状態でめっきします[図2]。
例)リードフレームなど端子先端部のみなどにめっき、基板上に所定のパターン形状にめっき
陽極については、噴射ノズルそのものが陽極になっている場合や、ノズルと陰極の間にメッシュ状の陽極を設置する場合などが様々です。いずれにしても、加工の観点から溶解性陽極の使用は困難で、白金製(白金コーティング)の不溶性陽極を使用することが多いようです。
(2)特徴
【1】陰極の高電流密度での使用が可能
液を強力に吹き付けることになるので、ラックめっきやバレルめっきと比較してカソード付近の液の入れ替わり(撹拌状態)が激しく、めっき部表面への金属イオン供給が活発です。
図3はめっき反応における金属イオンの動きを示したものです。金属イオンは沖合いからカソード表面近傍の拡散層と呼ばれる領域に供給され、還元(イオンの消耗)します。
めっき析出は電気量に従い進行します(ファラデーの法則)。正常なめっき反応においては、沖合からの金属イオン移動(供給)Ndと拡散層での金属析出(イオン消耗)Neの収支は保たれた状態です(Nd=Ne)。しかし、一定以上の電流密度になると供給が追いつかなくなり、金属イオンが不足します(Nd<Ne)。その状態においては、カソードでは水の電気分解により水素ガスが発生しやすく、粒成長が優先的となるため粗大化し、粗いめっき皮膜が得られます(これがヤケ・焦げの要因)。
この状態(イオン不足)にならない電流密度の最大値を限界電流密度といいます。
限界電流密度iLは以下の関係式で示されます。
限界電流密度は拡散層厚みdと反比例の関係にあり、薄いほど電流密度を高くすることができます。
噴流式のように撹拌状態が激しくなると拡散層は薄くなります。したがって、高い電流密度でも良好なめっき皮膜が得られます。
さらに、金属濃度C0を大きくすることでも電流密度を高くすることができます。
【2】部分めっきまたは片面めっき
ラック式(浸漬)にて部分めっきを行う場合、事前にレジスト印刷やマスキングシールを施すことになります。そのため、めっき後にはそれらを剥離する工程が必要となります。一方、噴流めっきにおいては、パターン形状にもよりますが、マスク治具に品物を押さえつけてめっき面と密着する状態で液を吹き付けて行うことが可能です[図4]。その場合は先述の剥離工程は不要となります。
また、片面のみをめっきする場合、浸漬による方法では、その裏面をカバーする治具などが必要となります。しかし、めっき面のみに液を当てる噴流式ではそれが必要ないため、治具を脱着する工程も不要です。
以上から、工程を省略化でき、人手も削減できることから自働化しやすい手法と言えます。
【3】持出しによる廃液低減
品物と各処理液との接触が片面あるいは部分的なため、他の手法と比べて液の持出し量が少ないです。排水処理負荷やロス低減の面でも効果が期待できます。
(3)ポイント・注意点
【1】めっき液
短時間処理かつ高電流密度での使用を可能とした噴流めっきでは、その効果を最大限に引き出すために金属濃度を高めにすることが多いです。また、高電流密度に適しためっき液を選定することが重要です。これは添加剤や電導塩の種類、およびその濃度管理が肝となりますので、めっき液メーカーと相談し、選定することが重要です。
【2】液更新
先述しましたが、陽極は不溶性のもの(白金コーティング)を使用することが多いです。溶解性陽極と比べて、陽極での電解生成物(有機物の分解など)が発生しやすくなります。また、高電流で使用できることから、それらがさらに蓄積されやすく、液劣化は進行しやすいです。そのため、めっき液種によっては定期的な液更新または活性炭処理による再生処理が必要になる場合があります。
めっき手法検討においては上記を念頭に入れて管理手法を確立していくこと、そして、そのランニングコストを調査することが大事です。
【3】液の染み出し
部分めっきとしてマスク部材を使用する場合、部材内へ液が染み出しには注意が必要です。品物とマスク部材との密着が弱い、またはマスキングが破損すると、液がマスク内へ侵入するため、所定位置や寸法でのめっきがなされません。めっきパターンや品物形状(凹凸、平面度など)によって難易度や適切なマスキング手法は異なりますので、検証段階で確認していくしかないでしょう。品物の固定密着方法、マスク手法と部材の選定、液を当てる強さ(流速)をしっかり検証しましょう。流速の検討にあたっては圧力損失がないように配管径や経路などを考え、設計する必要があります。
まとめ
噴流めっきについて、ラック法と比較した表を以下に示します。片面かつ部分めっきの場合はまず、噴流式を検討されると良いかと思います。
おわり
バレルめっき
お疲れさまです。
今回はめっき手法のひとつであるバレルめっき(主に電解めっき)についてご紹介します。
電子部品や機械部品などへのめっきで使われる手法になるので、これらに携わる方にとって役立つ内容になればと思います。
目次
※めっき手法全般を紹介した記事についてはこちらを参照
(1)概要
バレルめっきとは、バレルと呼ばれる容器の中に品物を投入し、めっき浴槽の中でバレルを回転させることでめっき品を混合させながらめっきする手法です。微小部品など小さいサイズの金属(導体)材料を大量に処理する場合に適しています。
バレルめっき手法には、水平式、傾斜式、振動式とさらに区別できますが、ここでは代表例として水平式について説明します[図1]。
(2)特徴
【1】品物が堆積し、一つの塊になる
バレル内に数百~数万個の品物を投入し、めっき中は品物同士が接した状態で混合(転がし)されます(ガラガラ抽選のようなイメージ)。
また、通電についてはバレル内へ挿入されたリード線を通し、その先端(図1の給電部)で行われます(先端部以外は不導体被覆されている)。めっき時は給電部と品物が常に接触している必要があり、給電部を覆うような形で品物が一つの塊(かたまり)となって堆積します。
【2】バレル孔を経路とした液の出入り
他のめっき手法では液流が品物に直接向かいますが、バレルめっきでは容器に加工した丸もしくはスリット状の孔を通路として液が出入りする機構です[図2]。そのため、内外での液の出入り(交換状態)が限定的です。よって、電解反応によりバレル内の液状態が劣化しやすく、成分変動も大きいです。これがバレルめっきの難しい点のひとつと言えます。
また、陰極へと向かう電流もバレル孔を通路とした限定的なものであるため、品物が受け取る電流密度は瞬時的に集中したものになります。
【3】周期的な電流密度変化
先述した通り、投入された品物は堆積され塊とみなすことができます。その内部にある品物ひとつに着目すると、バレル回転により「①表面→②バレル壁側→③内側」と位置を周期的に移動します[図3]。この各フェーズによって品物ひとつが受ける電流密度は変化します。陽極(めっき液)側に晒された状態の①では最大、バレル孔を通して晒された②は①③の間程度、埋もれた状態の③は最小の電流密度となります。ラックめっきなどとは異なり、電流密度は一定ではなく、処理時間(バレル回転数)に対し波のように変化します。加えて、【2】で述べたように、バレル孔を通路とした電流集中も考慮すると、①の状態では、かけた電流値以上の大きな電流密度を実際には受け取っています。よって、一般にバレルめっきでは、他のめっき手法と比べて低い電流密度(0.1~1A/dm2)となるように小さい電流でめっきします。
(3)ポイント・注意点
【1】品物の混合攪拌
品物は周期的に位置を変えますが、混合不足の場合だと電流密度変化の周期性が失われ、図3の①や③の状態に偏ったことで不良品が生じるリスクがあります。前者では、電流密度過剰な状態が続くことで陰極(品物)への金属イオンの供給が不足し、やけ(焦げ)と呼ばれる品質不良が発生します。一方、後者は電流密度過小による膜厚不足などが想定されます。
均一な混合のためには
(ⅰ)バレル内への品物投入量
(ⅱ)バレル回転
を適正にすることが重要です。
(ⅰ)バレル内への品物投入量
バレル容積に対して20〜40%くらいの投入量が目安です[図1]。多すぎると混合が図3の①〜③の周期が遅くなるor不均一な混合となります。
少なすぎると品物が塊から遊離したり、嵩が少ないことによりリード線先端の給電部が露出します。前者の場合は品物同士の接触から放れて通電が途絶えるだけでなく、その状態から再度品物に接触する際にスパークと呼ばれる焼け跡のような外観不良が発生します[図4]。後者の場合は露出部より金属の異常析出(花咲き)が発生しやすくなります[図5]。生産の都合上、少量で投入する場合はダミー材と混合させて嵩増しするなどで対応します。
引用
図4:http://www.press-mekki.com/faq/6113.html/
図5:https://www.jcu-i.com/technical/新規装飾用硫酸銅めっきプロセス%E3%80%80cu-brite-ep-60/
(ⅱ)バレル回転
バレル回転を十分な速度にし、しっかり混合することが重要です。しかし、回転をしゃかりきに速くすれば良いわけではありません。速すぎると今度は品物の動きが激しくなり、一時的に塊から遊離することで先述のスパーク不良につながります。
回転速度についてはバレル径や品物サイズによって適切に設定することが大事です。
経験則から、以下の式より、速度の目安をつけることができるそうです。
回転速度(rpm)=k/√D
k:定数、4〜8を当てはめる
√:ルート D:バレルの直径(m)
ただ、これは品物サイズや重量にもよって変わるため、検証することが大事です。
筆者の経験では、同じサイズ・形状・投入量(嵩体積)の品物でも、その素材が金属vs樹脂では重量密度が全く異なるため、各々で適切なバレル回転数に調整したことがあります。
投入された品物の混合状態は可視化できないため、このあたりの検証は熟練のノウハウも必要なのが現状でしょう。
【2】持込み・持出し
水洗を含む各処理槽からバレルを持ち上げ、次の処理槽へ移動する過程では液が持ち出されます[図6]。バレル内に侵入した液は、どうしても品物の塊内やバレル内に残ってしまうので、持出し量は他のめっき手法より多くなります。よって、処理液の成分濃度変動も大きくなるため、濃度管理をしっかり行いましょう。また、廃液処理の負荷や水洗槽の管理にも注意が必要です。
持出しを低減する方法として、
・装置に液切り機構(バレル持ち上げ後の数秒程度の空中停止および揺動など)を設ける
・比重の小さいめっき液を使用する
などがあげられます。
だだし、めっき液については比重を気にしすぎると品質に影響が出る可能性もあります。メーカーによってはバレルめっき専用のめっき液を提供するところもあるので、評価をして目的を満たす液を選択しましょう。
【3】リード線
先述の通り、リード線の給電部は露出すると、特にニッケルめっきなどでは花咲きが発生します。花咲きが発生しても、めっき品質にはさほど大きな影響はありませんが、同一バレルで異種製品を続けて処理する場合は注意が必要です。前回処理品が花咲き部に挟まるなどして残存してしまい、次回品に混入する可能性があります。
露出対策としては
・十分な品物投入量
・バレル回転の適正化
・リード線にクセをつける
→リード線は塩ビなど絶縁材料で被覆されたフレキシブルなものが一般的です。給電部が浮いた位置にある時は、取り付け更新時などに手で入念に押し付けて浮かないようにします[図7]。
まとめ
・バレルめっきは、バレル内外において孔を通路とした液流および電流であるため、液状態変化や品物が受け取る電流密度の挙動に特徴がある。
・バレル内での品物混合状態が重要であり、バレル回転や品物投入量を適正にする
参考:星野芳明, 表面技術, バレルめっきとめっき装置, 2017 年 68 巻 11 号 p. 586-593
おわり
ラックめっき
お疲れさまです。
今回はめっき手法のひとつであるラック(引っ掛け)めっきについてご紹介します。
めっきを説明する際に最もよく引用される手法です。品物を浴槽に浸けるだけという印象を持たれがちですが、品質を確保するために様々な検証を行い、条件や構成を決めていく必要があります。それらについて要点を感じてもらえれば幸いです。
目次
※めっき手法全般を紹介した記事についてはこちらを参照
(1)概要
ラックめっきは最もオーソドックスな手法となります。
ラック(引っ掛け、ハンガー、吊り具)と呼ばれる治具に品物を取り付け、浴槽内に浸漬させてめっきを行います。
電解めっきの場合、めっき浴槽にて、陽極(+)に対して水平になるように陰極(-、めっき品)を設置し、電気をかけます[図1]。1回あたり複数個の品物を同時処理するバッチ式で行うことが多く、治具に複数個取り付けorそれら治具をブスバー(陰極棒)に接触させる形で引っ掛けて配列します。治具は導電性材料(銅、真鍮など)を用い、図1で示す治具上部および取り付け部先端(茶色)はブスバーおよび品物と接触して通電できる状態にし、その他の部分(黒)については絶縁材料で被覆した構造です。
(2)特徴・ポイント
【1】電流分布
一般に陽極から陰極に向かう電流分布をについて、
①電極や電解槽の形状や配置(幾何学的因子)
②電極やめっき液の抵抗(電気的因子)
③めっき液と電極の界面近傍における反応抵抗(電気化学的因子)
これらを考慮する必要があり、解析や予測をする上では複雑です。そのため、簡単な理解のため、①のみを考慮したものを一次電流分布といい、これについて話を進めます。
ちなみに、③を考慮した場合は二次電流分布といいます。分極抵抗(電流-電位曲線の勾配)や溶液の抵抗率などを含めて議論するもので、めっき液種や含まれる成分(添加剤、錯化剤など)によって挙動が変化します。
ラックめっきに限らず、その他めっき手法でも言えることですが、電解めっきにおいては、電流分布は一様ではありません。陰極の端部や凸部に電流が集中し、そのような部位では過剰析出となり膜厚ばらつきが大きくなる傾向があります[図2(A)]。ラックめっきでは陽極と陰極の間に遮蔽板を設けることで一定の制御は可能です。図2(B)では陰極と垂直方向に遮蔽板を設置する例が示されています。
引用 図2:二級技能士コース めっき科p.88
それ以外にも極間距離や電極サイズ、遮蔽板の位置や開口形状などを適切にすることで分布集中を抑制し、膜厚分布を改善できます。図3はその一例ですが、遮蔽板と陰極の距離が近いほどor遮蔽板開口部が小さいほど、中心部膜厚が大きくなる傾向があります。この傾向については扱う品物(陰極)サイズなどによっても変化するので調整が必要です。
https://www.mizuho-ir.co.jp/solution/research/semiconductor/fabmeister/ep/0303.html
現在ではシミュレーション解析により分布を予測することができ、それに基づき槽形状や遮蔽板位置といった項目を目処づけすることができます。しかし、実際に検証してパラメーターを集めて知見やノウハウを蓄積することも重要でしょう。
遮蔽板を用いた検証にあたって意外と見落としがちなこととして、遮蔽板の設置が甘いことでその効果が現れないことがあります。遮蔽板と槽璧に隙間があることで板の横や底から電流ベクトルが漏れて(隙間を通路として)陰極端部の過剰膜厚が制御できていないことがあります。検証時には遮蔽板と壁に隙間がない試作槽を設計するor可能であればテープ等で隙間をふさぐなど、確認をした上で進めるようにしましょう(特に底から漏れはめっき液が槽に入ると見えないので要注意)。
【2】陰極
(ⅰ)ラック治具の注意点
ブスバーと治具引っ掛け部および品物取り付け部と品物の通電接点については、しっかり接触していることが重要です。ここが不十分だと通電不良となり、膜厚分布や析出速度低下などの品質不良が発生します。治具は使用するにしたがい、劣化や変形する可能性があります。特に品物取り付け部はばね式や細い形状のものが多いので変形しやすく、品物としっかり接していない場合や接点位置がずれるといったことがよくあります。また、ブスバーや引っ掛け部の腐食やめっき液成分由来の塩付着により通電不良となるケースもあります。洗浄やサンドペーパーで磨く、交換するなどの対応が必要です。治具の劣化や変形に注意し、定期的なメンテナンスや点検をしましょう。
(ⅱ)めっき反応中の水素ガス発生
これは電解or無電解めっきで共通する内容ですが、めっき反応中は陰極電流効率が100%でない限り、陰極界面上では金属析出と同時に水素ガスが発生します。計算上では電流効率が100%であったとしても、局所的にガス発生している可能性もあります。発生したガスは反応中に皮膜に取り込まれ、ピンホールやガス跡による外観不良といった問題につながる可能性があります。そのため、この水素ガスを陰極から素早く放してやる必要があります。その手段のひとつとして陰極(品物)を揺動させながらめっき処理する方法があります※1。原則、めっき処理中は陰極は動かすことが必要で、これはめっき手法全般で共通して言えることです※2(噴流めっきは除く)。例えば、くぼみ形状の品物をめっきする場合は発生ガス発生がくぼみ内側に滞留するため、くぼみ側が一定頻度で上を向くように揺動することが有効でしょう[図4]。揺動については、品物の形状によって上下・左右・前後・回転といった方向およびその速度など適切な方法を見出す必要があります。検証段階でガス跡の位置や方向に注意しながら確立していくことが重要です。
※1 その他にめっき液に適切な界面活性剤を添加する、撹拌を強くするなどもある
※2 フープめっきやバレルめっきについては、そもそもが品物を動かしながらめっきする手法
めっき槽や治具の構成上、揺動を行うのが難しい場合はパドル撹拌を陰極付近で左右方向に導入するなどの方法も有効です(図5)。
引用 図4:二級技能士コース めっき科p.86
まとめ
・ラックめっきは品物を取り付けた治具を引っ掛けて行う手法。品物を複数個取り付けてバッチ処理を行うことができる。
・電解めっきでは、陽極から陰極へ向かう電流は一様ではないため、膜厚分布はばらつく。極間に遮蔽板を設けるなどでそのばらつきを抑制することができる。
・電解めっきでは、電気接点をしっかりとることが重要。ラック治具の定期的なメンテナンスや交換が必要。
・めっき中は陰極界面上では水素ガスが発生する。それを取り除くために陰極(品物)の揺動が必要
おわり
【問題提起】製造現場で感じる難しさ
お疲れさまです。
今回は現場でものを流す難しさがテーマです。取り決めされたルールの中でQCDを達成するために、そこで働く人の心情はいかなるものかについて書きました。
現場で起きた違反事例について、なぜそうなったのか、当事者はどういう心理状態だったのかを想像し、違反を起こさないためにはどうすべきかしっかり考えてみましょう。
目次
(1)事例
以前いた会社でこんなことが起きました。
普段は担当者Aと責任者Bで回す工程にて、ある日、どうしても当日中に流さないといけない製品が多くありました。しかし、その日はあいにくAが不在だったこともあり、工程が追いついていない状況でした。そこで責任者Bは元担当者Cにヘルプでやってもらおうとしました。ところが、これまた厄介なハードルがありました。ルール上、担当者以外が行う場合は事前に教育が必須で、たとえ過去に経験がある者であっても再教育という形で受ける必要があったそうです。その上で顧客への提出書類に担当者印を押すことができ、最終的に客先に納入されます。
当時の状況では、再教育をしている余裕はなく、とても間に合いそうにありませんでした。
上記のルールについてBもCも認識していました。
そこでBは
①Cに工程を入るように指示
②担当者印についてはAの印鑑を使って押印。Bもそれに関して黙認。
こういった流れで何とかその場を凌いだわけです。
しかし後の調査でこれが不適切行為(コンプライアンス違反寸前)として発覚しました。
社内でも社長クラスにまで問題報告がされ、始末書レベルにまで発展しました。
(2)問題提起
ここで私が言いたいことは、“ルールや作業手順をしっかり守って、ものづくりをしましょう”、なんてことではありません。
責任者BやCの行動が問題であり、処分するなり是正すればいい…
そんな簡単な話でもないと私は考えます。
こんな状況において、あなたならどうしますか?ルールを遵守して適切に対応する自信は本当にありますか?ということです。
今回のような現場で起きる不適切行為は、制限速度50km/hの車道でバイクを走らせてる中、背後から70km/hで猛獣に追われても速度を守れますか?という状況に近いでしょう(当事者はそのくらいに感じていたかも)。
不適切行為が発生しない、かつQCDも守るために自分ならどうするかを考える必要はあります。
(3)納期を守るためにルールが守れない
私も現場経験がありますが、現場レベルでは想像を絶するくらいに“納期”に追われている状況かと想像します。
例えば、不良が出た時のネガティブな気持ち。これは不良をつくったこと自体よりも、それによるタイムロス(再加工、原因と対策への対応など)が主な理由とも言えます。不良による納期遅れを恐れるのです。なぜ、そこまで“納期”に対し緊張するのか、上司や関係者から急かされることによるプレッシャーもあるでしょうし、本来人間が持つ心理なのかもしれません。製品を大量に捌く製造現場においては、その一つひとつに設定された納期に向き合いながら仕事をするため、その精神的負担は膨大です。その中で存在するルールは、納期順守の過程におけるハードルみたいなもので、現場スタッフにとっては正直、煩わしいものに感じるわけです。本来はルール順守があっての納期ですが、いざ差し迫った状況では誤った判断や行為をしてしまうのでしょう。
(4)起こさないためには
もし自分だったら…
そう考えると、このままでは正直、自分も違反せずに行動できるか自信はありません。
おそらく、仕組みや組織上において対策が必要でしょう。
今後、このようなことが起きないように、ものづくりに携わる人間として検討すべきことことしては
・違反できない仕組みづくり
*印を電子化し、本人しか使用できないようにする。
*工程自動化、AI化
*開発段階で工程省略、簡略化検討
・教育方法の見直し
*ルール順守の徹底というより、ルール違反したらこうなるor顧客や会社そして自身にこういうダメージがあるという想像力を養う
*不正は必ずばれるという教育
・人員、労務管理の見直し
・メンバー間および管理職とのコミュニケーション改善
などが挙げられるでしょう。
しかし、これだけでは不十分でしょうし、まだまだ根本的解決にはなっていないかもしれません。コミュニケーションなんてそう簡単に改善できるもんでもないし…(ただの理想)
ぜひ、ここであげた事例を参考にし、法令や規定に関して各社(皆様の職場)が抱える潜在的な問題、QCDにかかわる懸念について議論して、それぞれに適した未然防止、解決策を見出してもらえればと思います。
まとめ
・現場当事者は“納期”という計り知れないプレッシャーの中、仕事をしている。それが不適切行為につながる要因になり得る。
・自分ならどうするかを想像して考えることが重要
以上
【完全主観】職場で関わってはいけない人
お疲れさまです。
今回は職場の人間関係がテーマです。
「職場で関わってはいけない人」3選をチョイスしました。
同様の内容について、様々なインフルエンサーの方が発表(※)していますが、一応3社を経験し、その中でいろんな人間を見てきた私が自己満で考えてみました。
※参考
◽︎マコなり社長
「身近にいる絶対に関わってはいけない人」
◽︎両学長リベラルアーツ大学
「あなたの身近にいる人生で関わってはいけない人5選」
今回の選定にあたって、以下の基準で考えました。
*明らかな人格欠陥者は除外
Ex.露骨なパワハラ&モラハラ(Shiね/辞めちまえ/人格否定発言、暴力など)、違法行為またはその強要
*一部の人に評判が悪いとかではなく、職場あるいは部署全体に敬遠されていた人によくある特徴
*仕事ができない、ミスが多いとかも除外
この類の内容では独断と偏見になりがちです。全てにおいて納得される方はいないでしょうが、部分的にでも共感する内容があれば、気休めとしてお楽しみいただければと思います。
関わってはいけない人3選
『求めていないアドバイスをしてくる人』
取り組んでる仕事に対して関係性のない、もしくは論点とはズレた意見をしてくる人です。
これは上記参考(※)でも紹介されている内容ですが、相手する上で本当に面倒くさい人です。
私の経験を例にすると、ある時、最表面めっきの問題を検証中に、老害社員Xが首を突っ込んできて、何故か下地ニッケルめっきの添加剤について語り出しました。ヒートアップし、しまいには、その(求めていない)アドバイスを実証して顧客への報告レポートに盛り込めと言って騒ぎ出しました。事情を説明しても聞く耳を持たず、管理職もXを抑えられずで、結局ニッケルめっきの検証をするハメになりました。もちろん、それにより本来の目的に割く時間は削られるor残業時間を増やして対応することになります。Xの不要なアドバイスによって自分(会社)の時間が犠牲になるわけです。
結果、顧客からは「ニッケルめっきの話とお願いしていた問題の検証はどう紐づくの!?」と不信感を抱かれました。
このような人を相手にしても
・自分には何のプラスにもならない
・時間が削られる(話を聞かされる時間、不要な対応が増える)
・周囲や関係者にマイナスの結果を生む
といったように損することが多く、迷惑を被ることになります。
なぜ求めていないアドバイスをしてくるのでしょうか。
推察するに、
「俺はお前より知ってる」
「正しいことを言ってあげてる」
といったマウント心理があります。
あくまで相手より精神的優位に立ちたいだけなのです。
そして、こんな人が必ずといっていいほど、付け加える発言があります。
それは、
「お前のために言ってるんだ」
こんな人と仕事をしていると、徐々に自身の精神がすり減ってしまい、ストレスになりますね。。。
『自分を主語にして組織や職場の功績を語る人』
会社や組織にとってポジティブな結果を「“自分”がやった」と、目下の者にわざわざアピールしてくる人のことです。
具体例として
「俺が自動化を実現したおかげで問題だらけだった工場は変貌を遂げた」
「俺が赤字で潰れかけた会社を黒字化した」
といった類です。
もちろん、必要なアピールを周囲にすることは大事です。ただ、“自分”を前面に出し、恩着せがましく語る人には要注意です。
私がこれまで見てきた中では、実際には大して貢献してなかったり、本当は負の要素が大きいにもかかわらず都合の良い事実だけを語る人が多かったです。
(そもそも単独で仕事が成功するなんてことはあまりないですし、人格者であれば「関係者のおかげで達成できた」などと周囲へ感謝の気持ちが先に表れるのではないでしょうか)
発言が事実であれば、称賛や高評価の声があってもいいはずですが、大抵の場合、むしろ評判が悪いです。1つ目の例では、前任者の頃から既に自動化はされており、引き継いだ発言者(課長)は一部を更新したのみ。その更新後で生産性は上がらず、不良率は大きく悪化。現場や事業部内からは批判続出しているのが実際でした。
自分の功績だったことにして語りたがる人の心理として、
・自己顕示欲
・自分を魅力的に見せて味方を増やしたい
・実存する不都合を誤魔化したい
などがあると思われます。
このタイプの人間は都合の良い話には寄ってきますが、不都合な事実には認識がないor自責の意識は希薄なことが多く、
・語られていない不都合の尻拭いをさせられる
・結果が芳しくないと他責にされる
(指示通りに遂行しても“俺は知らない”、“お前がやったことだ”)
・手柄は全て持っていかれる
・案件の見込みがなくなると押し付けられる
といった弊害があります。
くれぐれも取り繕った魅力に騙されないようにしましょう。
『やたら権力者や実力者の名前を出す人』
人事権を持っていたり、事業を動かす決定権を持つ実力者の名前を出し、繋がりを強調する人のことです。
「事業部長とはいつも考えが合うし、今回も俺の意見に賛同するだろう」
「飲み会で本部長にめっちゃ喜んでもらえたから好かれている」
「俺は社長にスカウトされ、懇願されてこの会社に入った」
日頃からこんなことを口にする人には警戒してください。
まず、零細企業または社長の息子とかでない限り、トップと程遠い立場(中間管理職以下)の人が上記のような関係性になることは考えにくいです。普通であれば、わざわざ上記のようなことを口にしないでしょう。
心理として
・自分を大きく見せて優位に立ちたい
・後ろ盾をチラつかせて、味方を増やしたい
・発言力を持たせたい
が働いていると思われます。
このタイプの人間はとにかく自分に自信がなく、権力者の名前を使って自分を保っているのです。また、そうすることで権力者と同じ様に他人を支配できると勘違いしている場合もあります。
このような人は
・意思に反する、もしくは気に食わないことがあると攻撃的態度をとる
(権力者の名を後ろ盾にして)
・必要以上に上下関係を強いてくる
・自分の意見を押し通そうとして、場を乱す(議論ができない)
などの傾向があり、とにかく面倒です。また、実際は言うほどの人脈はないので仕事の上でも役に立ちません。関わるとろくなことはありません。
まとめ
紹介した「関わってはいけない人」は過去の体験からくる強いコンプレックスを抱えてる場合が多いようです。他人の過去の環境は変えられませんので、どうしようもありません。距離を置く方が無難です。それでもその人が直属の上司の場合など、どうしても常に関わらざるを得ない環境であれば転職などで逃げても良いと思います。そんな人のために自身の時間を犠牲にし、精神をすり減らすなんて馬鹿げています。あなたを不幸にする「関わってはいけない人」に振り回されないようにキャリア人生を有意義なものにしたいものですね。
おわり
めっき手法
お疲れさまです。
今回はめっき手法(装置)について、代表的な種類をご紹介します。
めっき対象物や用途、要求仕様などによって、用いる手法選定は重要となります。
また、それによってめっきの条件設定についても検証が必要となってきます。
また、めっき技術者ではない方でも、めっきがどんな方法でされるのかを知るための参考になればと思いますので、ぜひ目を通してみてください。
目次
(1)ラック(引っ掛け)めっき
これは最もオーソドックスな手法となります。
めっき浴槽にて、陽極(+)に対して水平になるように陰極(-、めっき品)を設置し、電気をかけてめっきする方法です[図1]。
電解めっきでは、陽極から陰極に向かう電流は一様ではなく、陰極の端部や凸部に電流が集中し、そのような部位では過剰析出となり膜厚ばらつきが大きくなる傾向があります。それを緩和したい場合は、陽極と陰極の間に遮蔽板を設け、電流分布集中を抑制する対策などがあります[図2]。その他にも、極間距離や陽極または陰極サイズ、遮蔽板の位置や開口形状によっても変わりますので、検証して適切な条件を決定することが重要です。
めっき品を専用の治具に引っ掛けてめっきしますが、めっき品と治具がしっかり接していない場合や接点位置がずれていたりすると通電不良や膜厚ばらつきなどの品質に影響が生じることもあります。治具の劣化や変形に注意し、メンテナンスや定期的な交換が必要です。
(2)バレルめっき
バレルと呼ばれる容器の中に品物を投入し、めっき浴槽の中でバレルを回転させることでめっき品を混合させながらめっきする手法です。微小部品など小さいサイズの金属(導体)材料を大量に処理する場合に適しています。
バレルめっき手法には、水平式、傾斜式、振動式とさらに区別できますが、ここでは代表例として水平式について図示します[図3]。
他のめっき手法では品物にめっき液が直接触れますが、バレルめっきでは、バレル壁に加工した丸もしくはスリット状の孔を通路として液が出入りする機構です。そのため、カソード付近での通液(液撹拌)状態が他の手法とは大きく異なり、バレル内での反応や成分変動も変わってきます。これがバレルめっきの難しい点のひとつと言えます。
通電についてはバレル内へ挿入されたリード線を通して行われ、リード線の先端のみ通電が可能です(先端部以外は不導体被覆されている)。品物はその先端部と常に接した状態で転がされながら、めっきされます。
上記、バレル内外の通液状態や製品混合状態などによって品質が左右されるため、バレル孔のサイズやバレル回転数、品物投入量といった検証をしっかり行う必要があるでしょう。
(3)噴流めっき
ノズルからめっき液を噴流させ、強い勢いでめっき面に当ててめっきする方法です。対象物の片面のみめっきしたい場合や部分的な位置にめっきしたい場合に使用します。
別名、「ジェットめっき」ともいいます。
液を強力に吹き付けることになるので、ラックめっきやバレルめっきと比較してカソード付近の液の入れ替わり(撹拌状態)が激しく、めっき部表面への金属イオン供給が活発です[図4]。そのため、析出速度も前記(1)(2)より大きく、また、高電流密度で使用可能です(※)。
※専門的にいうと、カソード表面近傍の拡散層の厚みと限界電流密度は反比例の関係にある。撹拌状態が激しくなると拡散層は薄くなり、限界電流密度が大きくなることで高い電流密度でも良好なめっき皮膜が得られる。
また、片面のみあるいは部分的に液と接触させるので、液の持ち出しも低減させることができ、排水処理やロス削減の面でも効果的です。
陽極については、噴射ノズルそのものが陽極にする場合や、ノズルと陰極の間にメッシュ状の陽極を設置する場合などがあります。いずれにしても、陽極加工の観点から溶解性陽極の使用は不可で、白金製(白金コーティング)の不溶性陽極を使用することがほとんどです。
(4)フープめっき
長い帯形状に加工されてロール状に丸められた金属材料やリールに巻かれた対象品物を送り出しながら前処理工程やめっき工程を連続的に通過させながら処理する手法です[図5]。別名「リールtoリールめっき」や「連続めっき」とも呼ばれています。主に、リードフレームへのめっきに使用されます。
品物への処理については、前述した噴流式(めっき面を下側にし、液を下から上に吹き付ける)と同様の方法と、めっき面を側面にした状態で浴槽を通過しながら処理する方法などがあります。電解めっきの場合、陽極については前者は噴射ノズル側に、後者はめっき面と平行な位置に設置します。他の手法と比較して、カソード(品物)を高速で一定方向に動かしながら処理するので、カソード付近の液の撹拌状態が良く、カソードへの金属イオン供給が活発です。そのため、ラックやバレルめっきと比較して高電流密度で使用されることも多いです。
リードフレームの先端ピン部のみなど部分的な位置にめっきしたい場合は、先端部のみ浸漬して液面高さによる管理にて処理、さらに正確な部分性が必要な場合はマスキング(治具、シールなど)を施して処理します。
まとめ
今回はめっき手法の紹介ということで、簡単ではございますが投稿しました。
各手法の詳細については、後日ご紹介できればと思います。
おわり