メーカー技術者のブログ

技術者転職、めっき技術について

「品質と人」 言葉から表れるモノづくり

お疲れさまです。

 

今回は「品質と人」がテーマです。

人の言動から見えてくるモノづくりの考え方や組織の雰囲気について、私の経験から感じたことを交えながらお伝えします。

内容は割と思いつき感もあって、まとまりに欠けるかもしれませんが、何となく雰囲気だけでも読み取ってもらえればと思います。

 

 

目次

 

 

(1)品質トラブル時の言動

 品質不良でバタバタしだすと、よく耳にするのが「製造における技術不足が原因」「ノウハウが継承がされていない」です。

 めっき製造現場や薬品開発では、社内または顧客の現場でめっき不良は多く存在し、担当者が頭を抱える様子を幾度と見てきました。めっき薬品開発においても、ユーザーへの説明や解明・対策に苦労します(私も経験した)。現職の無電解めっき工程でも不良が落ち着かず、数ヶ月にわたってモノが流せていません。客先に対策を提案しては細部を突っ込まれ、そのツッコミの対策をしては更なる細部を突っ込まれ…、その繰り返しで業務負担は増え、本質的な解決が見えず迷宮入り状態です。

 「技術不足」「若手への技術継承」。確かに要因としては考えやすいですし、あり得る話でしょう。しかし、理由としては的確でしょうか?

 

(2)製造側の問題なのか

 上記の発言に見える本質は、あくまで製造現場における技術やノウハウを対象にしています。言い換えると、開発設計や量産化検討段階には着目していないのです。しかし、現職での品質問題でも、ヒアリングしていくと、開発段階において、

・ひたすら生産速度(析出速度)を重視し、その他の要素でミスマッチがあった(浴負荷、めっき以外の析出、推奨範囲外での使用など)

・スケールアップ時のテストラン未実施(薬品メーカーの取説通りの使用で何とかなるという想定)

 

これらの不備があったのは事実だそうです。社内の量産化へ向けた取り組み(めっき液選定、テストラン)の問題、あるいは薬品メーカーの技術力不足やミスマッチな提案があったかなど、原因は不明です。しかし、いずれにしても、このまま量産移管されては、現場側はどうしようもありません。製造段階の問題ではなく、それ以前の段階が準備不足だったのではないでしょうか。

品質の良し悪しの8割は設計段階までで決まる、製造段階はせいぜい2割とよく言います。めっきの世界でも、まさしくその通りで、量産化までに抽出できなかった課題のしわ寄せは間違いなく製造側に行くのです。

「技術不足」「技術継承」というのはごもっともなように聞こえるのですが、不足していたのは“技術”や“継承”よりも、“準備”または“検証”ではないでしょうか。

 

(3)担当者の苦労

 めっき工程を含む製造業でも、めっき薬品メーカーでも、社内または顧客での品質トラブルに対し、顧客に説明したり現場で検証業務に当たる当事者がいます。率直に言うとハズレくじ、面倒という印象を持たれがちなのがこのポジションです。

まず、前述したように量産化以前の問題が原因だと後戻りしづらく、工程変更となるとさらに高いハードルが待ち受けることになります。つまり、技術的な解決策があったとしても、それを実現するには膨大なエネルギー(仕事量、精神面)が必要となります。

また、製造業に限らず、仕事における周りからの印象や評価というのは減点法(いかに失敗やマイナスを作らないか)または加点法(新たな成果や価値創造)によるものが多いでしょう。研究開発のようなゼロからプラスを生み出すような仕事とは異なり、品質トラブル対応というのは不良(マイナス要素)を解決(ゼロに戻す)することが役割です。つまり、印象としてはマイナススタートから携わり、原状回復してもプラスにはなりません。このような印象のある仕事に対して非協力的な人も少なくなく、責任感のない上司や職場だと1人で抱え込むハメになり、精神的に辛くなるケースもあります。こういう時は1人に任せるのではなく、管理職含めて関係者達が当事者意識を持ち、一丸となって取り組みたいものです。。。

 

(4)製造現場での人間模様、そして起こること

 品質は量産化検討までが勝負ではありますが、品質問題発生時にも何とかモノは流したいですし、やはり製造側も対応に追われます。

製造現場では不良発生時にどうなるでしょうか。これも管理職やリーダー次第では最悪な環境になります。

私が以前所属しためっき製造現場がその典型例です。

とあるめっきラインにおいて品質不良が多発していたため、ハルセル試験による状態確認や原因特定、液管理方法見直し、管理ミス防止のための帳票改定等の対応をしました。なんとか品質改善までやり遂げたのですが、状況について随時報告する度に上司から返ってきた言葉が「そんなの当たり前だ!」「不良が出る状態にした時点でお前はダメなんだ!」とまさかの罵倒でした。これはこの件に限らず、当時の環境では誰しもが経験したことのようです。そうなると、スタッフの中では「一生懸命取り組んでも報われない」「今後同じことが起きても、もうやりたくない」という感情が芽生えてしまいます。そして、そんな職場で起こる現象が責任転嫁です。不良発生時にスタッフ間で「この不良はスタッフAが当番(交代勤務)の時に発生したものだからAが悪い」「その前に液更新をBがしていれば不良は起きなかったはず」「その当番前から少し調子が落ちてたみたいだからCが悪い」。。。こんなやりとりが常態化していました。こうやって“誰が悪い”に集中してしまい、どう問題を解決するかを誰も考えなくなってしまいます。そんな現場でいいモノづくりができるはずもなく、当時は歩留まりも利益も右肩下がりでした(人の定着は元々悪い)。

このように、上司や職場の雰囲気によって、人の品質に対する取り組みや姿勢は大きく変わってしまいます。

「モノづくりは人づくりから」とはこういうことなのかなと私は考えています。

 

(5)まとめ

・品質はやはり開発〜量産化検討段階が重要。量産化してからではどうしようもないことがほとんど。

・品質不良が発生すると多方面から人が関わってきますが、そんな異常時ほど人の本性や考えが見えてきます。開発にしろ製造現場にしろ、各個人のそういった考えが集まって職場の雰囲気はつくられますし、モノがつくられるわけです。人もモノも意識しながら、技術者として精進したいものです。 

・毎日、品質に向き合っている方、本当にお疲れさまです。また、不良対応や品質に携わっている方に対しては、否定したり貶したりするのではなく、せめて労いの気持ちくらいは持ってください。

 

 

おわり